長浜・西野水道を探検!江戸時代の手掘りトンネル220mの先にある、人々が夢見た景色へ
山肌にぽっかりと開いた、黒い穴。
近づくにつれ、ひんやりとした空気が顔にあたる。
中をのぞき込んでも、数メートル先からはもう何も見えない。
ここは滋賀県長浜市高月町西野、「西野水道」の入口。
江戸時代、人々が素手同然の道具で山を掘り抜いて造ったという、幅約1.2m・高さ約2mの手掘りトンネルだ。
長さは約220m。数字だけ見れば、たいした距離には思えないかもしれない。
けれど今、目の前にあるのは真っ暗な穴。
懐中電灯ひとつを頼りに、この先へ足を踏み入れることになる。
一体、この先に何が待っているのか。
ヘルメットをかぶり、長靴を履き、深呼吸をひとつしてから、暗闇の中へ入っていく。
西野水道とは?江戸時代に山を掘り抜いた理由
西野水道がある長浜市高月町西野は、山と余呉川に挟まれた地域にある。
昔から大雨のたびに余呉川が氾濫し、周辺の集落は洪水の被害を繰り返し受けてきた。
そこで、川の水を琵琶湖へ流すため、山を掘り抜いて水路を通す計画が立てられる。
この難工事を先頭に立って進めたのが、充満寺第11代住職・恵荘上人だったという。
工事が始まったのは1840年(天保11年)のことだった。
そして5年の歳月をかけ、1845年(弘化2年)、ついに水道が完成する。もちろん重機などない時代、人の手だけで山を掘り進めて造り上げた水路だ。
実はこのトンネル、初代だけではない。
その後1950年(昭和25年)に2代目、1980年(昭和55年)には3代目も造られており、時代とともに水路の規模も大きくなっていった。
今回歩くのは、史跡として今も残るこの初代西野水道。
初代西野水道の全体図が書いてある。これでなんとなく距離感と見どころがわかるので助かった。
サイズは高さ約2m、幅約1.2m、長さ約220mと、現在の水路と比べればずいぶんこぢんまりとしている。
真っ暗な穴へ一歩ずつ西野水道を実際に歩いてみた
西野水道の奥は暗く、どこまで続いているのか見当もつかない。
身構えつつ、足を踏み入れる。一歩進むごとに、外の明るさが遠ざかっていく。振り返ると、入口はもう小さい。
この日の外気温は28℃。ところがトンネル内は23℃しかなく、外より5℃ほど低いひんやりとした空気に包まれる。夏場に入ると、この温度差はかなり効く。
ただし「涼しいだけの場所」ではない。
天井からは水がポタポタと落ち、足元を見れば地面はすっかり水浸し。気が緩むと滑ってしまいそうだと思っていた矢先、
はっ!!!っと滑ってしまった。
これは長靴なしでは厳しい。一歩一歩しっかり踏み込んで進む必要があるな。
さらに奥へ。すると少しずつ、自分の声が響くようになってきた。
トンネルの壁に反響する音。入口付近とは、明らかに空気が変わっている。
現地の案内板によれば、このトンネルは、東西両側から掘り貫通させたと書いてあった。
今なら重機で済む作業も、当時はすべて人力。
壁を眺めながら歩いていると、「よくここまで人の力で掘ったものだ」と何度もつぶやきたくなる。
案内には、工事の際にサザエの貝殻を灯りとして使っていたとも書かれていた。
照明もない暗い山中で、わずかな明かりを頼りに掘り進めていたわけだ。
さらに進むと、内部には「天井が4m10cmもある高い場所」として紹介されている場所や、
「水道内で一番大きい断層」も現れる。
ただ素人にはどれが断層なのか全くわからなかった。
自然の山をくり抜いたトンネルだからこそ、場所によって表情がまるで違う。
これもまた、実際に歩いてみないと分からないことの一つだ。
そして琵琶湖側の出口へ近づくほど、天井がぐっと低くなる。
身長が高い人は、かなり腰をかがめないと歩けない。実際、何度も頭をぶつけてしまい、案内所で借りたヘルメットに何度も助けられた。
220mという距離と中腰の姿勢が少しずつ体に染みてくる。腰がもう限界だ。
220mの暗闇を抜けた先、思わず声が出た景色
暗闇を歩いていると、220mという距離が想像以上に長く感じられる。
それでもしばらく進むと、前方にうっすら明るい場所が見えてきた。あれが出口だ。少しずつ、光が大きくなっていく。
ようやく抜け出た瞬間、目の前に琵琶湖が広がった。
さっきまでの暗く狭い道のりが嘘のように、視界が一気に開ける。広々とした空と、水面いっぱいに広がる琵琶湖。ここまで歩いてきた道を、思わず振り返ってしまう。
集落を洪水から守るために掘り抜かれたこの水道。
当時、このトンネルを掘った人たちも、最後にこの琵琶湖へと抜ける瞬間を目指していた。
暗闇の先に広がる琵琶湖の景色を思い描きながら、ひたすら山を掘り続けていたはずだ。
そう考えると、目の前に広がる琵琶湖が、いつもより少し特別な景色に見えた。
事前に調べていたのは「江戸時代に洪水を防ぐために造られた手掘りトンネル」といった情報だけだった。
けれど実際に歩いてみると、外より5℃ほど低い空気、天井から落ちる水滴、水浸しの足元、奥へ進むほど響く自分の声、琵琶湖側に近づくほど低くなる天井。文字だけでは伝わらないことがいくつもあった。
220mという距離も、自分の足で歩いてはじめて実感が湧いた。
ここを掘った人たちの苦労を、ほんの少しだが身近に感じられた気がする。
実際に歩くからわかる、西野水道の本当の魅力
長浜市高月町に残るこの史跡。今回歩いたのは、1845年に完成した初代のトンネルだ。
暗く、水があり、場所によっては天井も低い。お世辞にも歩きやすい道とは言えない。
それでも220mを進み切って出口にたどり着いたとき、ここが180年前に人の手で造られた場所なのだと、じわりと実感が湧いてきた。
そして、暗闇の先に広がる琵琶湖の景色。この開放感は、実際に歩いたからこそ味わえるものだった。
歴史を知ってから、その中へ足を運んでみる。それだけで、見え方はきっと大きく変わるはずだ。
長浜に残る貴重な歴史遺産。訪れる機会があれば、自分の足で歩いてみてほしい。
西野水道へ行く前に知っておきたいこと(装備・アクセス・駐車場)
暗くて足元も悪いからこそ、事前の準備が必要だ。訪れる前に押さえておきたいポイントをまとめておく。
装備品について
駐車場近くには案内所(無人)があり、ヘルメット・長靴・懐中電灯を借りられる。
実際に歩いた身としては、長靴とヘルメットの着用は強くおすすめしたい。内部は水が落ち、地面も水浸しになっているため、普通の靴では歩きにくい。
また琵琶湖側に近づくと天井が低くなる箇所があり、身長の高い人は頭をぶつけやすいので要注意だ。
一方、貸し出しの懐中電灯は今回使ってみると光がかなり弱かった。内部は暗いため、できればLED懐中電灯を持参するとよさそうだ。
西野水道内はジメジメしているので、カビ臭や埃っぽさを遮断するために、密着性の高いマスクの持参をおすすめする。
貴重な史跡ではあるものの、観光用に整備された道ではないので無理をせず、現地の案内や注意事項に従って、安全第一で見学してほしい。
西野水道へのアクセス方法
| 名称 | 西野水道(にしのずいどう) |
|---|---|
| 住所 | 滋賀県長浜市高月町西野 |
| アクセス | 北陸自動車道木之本ICより車で約10〜15分 |
| 花のみごろ | ●桜(4月) |
| 駐車場 | あり |
| トイレ | あり |
西野水道の駐車場
西野水道には、無料の専用駐車場があった。目的地のすぐ横にある「西野ほりぬき公園」の敷地内に駐車スペースが用意されている。
