【長浜の伝説】田村山に残る「鯉が池」は本当にあった?『長浜のむかし話』を片手に歩いてみた
本を読んで、「面白かった。」
ネットで調べて、「なるほど。」
AIに聞いて、「それが正解。」
こんなふうに、知っただけで満足してしまうことが増えた気がする。
もちろん、それが悪いわけじゃない。
でも今回は少し違う。
図書館で何気なく手に取った一冊の『長浜のむかし話』。
ページをめくると、「鯉が池」という見慣れない題名が目に飛び込んできた。
舞台は長浜市田村町の田村山。
「こんな昔話が長浜にあったのか。」
読み進めるうちに、頭の中では田村山の景色が勝手に広がっていく。
池はどこにあったんだろう。
今も残っているんだろうか。
本を閉じる前に、答えは決まっていた。
行ってみよう。
『長浜のむかし話』に残る「鯉が池」の伝説
田村山の頂上近くには、「鯉が池」と呼ばれる池があったと伝えられている。
『長浜のむかし話』によると、その池には一匹の大きな鯉が住み、美しい稚児(ちご)の姿となって毎晩近くの娘のもとへ通っていたという。
娘の母親は、不思議な稚児がどこから来るのか知りたくなり、娘が繰る糸の先に釣針を付け、そっと袴の裾へ引っかける。
翌朝、糸をたどって田村山へ向かうと、池には背びれに釣針が刺さった大きな鯉が横たわっていた。
その夜、夢枕に現れた稚児は、自らが池の主であることを明かし、「私はあの池の主です。今、この針が私の体の急所にささって、死んでいきますが、これから田村付近は水不足になりましょう。」と告げる。
その後、母親がおわびに池を訪れると、大雷雨の中、鯉は龍となって空高く昇っていった。
それ以来、この池は「鯉が池」と呼ばれるようになり、田村町周辺には雨乞いの伝承も残されているという。
※『長浜のむかし話』(編集:長浜むかし話編集委員会、発行:長浜市老人クラブ連合会)をもとに要約しています。
長浜のむかし話を片手に、田村山へ
本を読んだだけでは終われない。
向かったのは、田村山の登山口でもある忍海神社。
鳥居の脇に登山道がある。「この先に昔話の舞台がある」と思うだけで少しワクワクしてくる。
話を知ってから歩く山は、いつもの山とは少し違って見えた。
山へ入ると、すぐに空気がガラッと変わる。
涼しくて、真夏の日差しが嘘のようだった。
木々がつくる日陰は心地よく、セミや鳥の声が山いっぱいに響いている。
歩いているうちに、子どもの頃を思い出した。近所の神社や田んぼ、山を走り回っていた夏休み。あの頃は、山へ入るだけで冒険だった。
長い年月をかけて育った木々は、まるで緑のトンネル。その隙間から差し込む木漏れ日が本当に美しく、何度も足を止めて見上げてしまった。
本当に池はあったのか。「鯉が池」と伝わる場所へ
「あ、ここか。」誰もいない山の中で思わず声が出た。
今は静かな窪地になっていて、知らなければ通り過ぎてしまいそうな場所。
もちろん、昔話に描かれたような池がそのまま残っているわけではない。
それでも、本を読んでから来ると見える景色が変わる。
「ここに池があったのかな。」
「鯉はここにいたのかな。」
そんなことを考えながら、その場に立っていた。
答えは分からない。でも、不思議と昔話がぐっと身近に感じられた。
気付けば山頂。標高は約138メートル。
登る時間は15分ほどだ。
低い山とはいえ、普段の運動不足には十分こたえる。
でも、山頂から景色を見た瞬間、そんな疲れはどこかへ飛んでいった。
長浜の街。広がる田園。そして、その先には琵琶湖。
「長浜で一番好きな景色かもしれない。」
そう思いながら、しばらく景色を眺めていた。
『長浜市史』にも残る鯉が池と雨乞いの伝承
『長浜市史 第7巻(文化財・民俗編)』には、鯉が池の記述と池跡の写真が掲載されている。
さらに、江戸時代後期に編さんされた『近江輿地志略』にも、この伝説が記されているという。
『長浜のむかし話』の最後には、「田村町やその付近には、雨乞いの行事や風習について、この物語にまつわるいろいろな話や催しがあると聞いています。」
と書かれている。
昔の人にとって、この池はただの池ではなかった。雨を願い、自然へ祈りを捧げる場所。
だからこそ、何百年も語り継がれてきたのかもしれない。
本を読むだけでは出会えない景色があった
図書館で本を読む。それだけでも十分楽しい。
でも、本を閉じて、その場所まで歩いてみると、本には書かれていない景色が待っていた。
木漏れ日や山を吹き抜ける風。
山頂から眺める長浜の街。
そして、静かに残る「鯉が池」。
一冊の本が田村山まで連れてきてくれたことだけは確かだ。
本を読むだけでは出会えない景色がある。
「鯉が池」は、そんなことを教えてくれた長浜の昔話だった。
引用・参考資料
『長浜のむかし話』(編集:長浜むかし話編集委員会、発行:長浜市老人クラブ連合会)
『長浜市史 第7巻(文化財・民俗編)』
『近江輿地志略』
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